こんにちは、近森謄写堂の三代目、近森純一郎です。
高知の地で、祖父の代から数えて70年。私たちは、ただ紙にインクを載せるだけの「印刷会社」ではなく、お客様の想いや情報を届けるお手伝いをする「グラフィックサービス業」でありたいと考えています。
最近ではデジタル技術が進み、パソコンの画面上で何度でも修正ができるのが当たり前になりました。しかし、私たちの仕事の中には、今もなお「紙の原稿」や「完成されたデータ」をそのまま活かす「ダイレクト印刷」という手法が息づいています。
このダイレクト印刷、実はコストを抑えつつスピーディーに仕上げるための素晴らしい方法なのですが、一方で、デジタル時代の「後から直せる」という感覚で進めると、思わぬ落とし穴にはまってしまうこともあります。
今日は、皆さんの大切な制作物を理想の形で仕上げるために、知っておいていただきたい「ダイレクト印刷のルール」について、少しだけ踏み込んでお話しさせてください。
「原稿が版になる」という、究極にシンプルな仕組み
まず、「ダイレクト印刷」とは何かというお話から始めましょう。
かつての印刷は、いただいた紙の原稿を写真に撮り、そこから「版」を作っていました。ダイレクト印刷もその流れを汲むもので、入稿いただいた原稿(紙、あるいは完成されたデータ)を、そのまま印刷用の版に焼き付けて使用します。
つまり、お預かりした原稿が「そのまま」印刷機にかかるということです。
これは、料理に例えるなら「素材をそのまま生かすお造り」のようなものかもしれません。後から味付けを変えたり、煮込み直したりすることができない分、素材である「原稿」の完成度が、そのまま仕上がりのクオリティを決定づけます。
この手法の最大のメリットは、工程がシンプルであるため、コストを抑え、短い期間でお届けできることにあります。町内会のお知らせや、限られた予算で作る冊子など、高知の皆さんの暮らしやビジネスを支えてきた、いわば「伝統の知恵」とも言える印刷方法なのです。
なぜ、ダイレクト印刷には「校正」という概念がないのか
ここで一つ、ぜひ知っておいていただきたい大切なポイントがあります。それは、ダイレクト印刷には、一般的な印刷工程にあるような「校正(チェックと修正の繰り返し)」という概念が、基本的には存在しないということです。
通常の印刷であれば、データをいただいてから「一度試し刷りを見ていただき、誤字を直して、また確認する」というキャッチボールが可能です。しかし、ダイレクト印刷は「入稿=印刷開始」を前提とした仕組みです。
私たちが原稿を受け取った瞬間、それはすでに「完成品」として扱われます。
「後で直せばいいや」というお気持ちで未完成の原稿をお預かりしてしまうと、後戻りができなくなってしまいます。正直に申し上げますと、私たちとしても「ここ、間違っていませんか?」とお声がけしたい場面もあります。しかし、ダイレクト印刷のスピード感とコストを維持するためには、原稿そのものに手を加えないことが大原則なのです。
「出す前に、もう一度だけ見直す」。この一手間が、ダイレクト印刷においては何よりも心強い味方になります。
修正が必要になったとき、私たちが「差し替え」をお願いする理由
「あ! 印刷に回した後に、電話番号の間違いを見つけてしまった……」
そんな時、焦ってしまうのは当然です。私たちもできる限りのフォローをしたいと考えています。ただ、ダイレクト印刷の場合、パソコンのキーボードで一文字パパッと打ち直す、というわけにはいきません。
もし修正が生じた場合は、修正した箇所を含む「ページ丸ごとの差し替え原稿」を、改めてご用意いただく必要があります。
なぜなら、前述の通り「原稿=版」だからです。一部を修正するためには、古い版を捨て、新しい原稿から新しい版を作り直さなければなりません。これは、たとえ一文字の修正であっても、工程としては「ゼロからの作り直し」と同じ労力とコストがかかってしまうことを意味します。
「たった一箇所なのに……」と思われるかもしれません。ですが、このルールを守ることで、結果として全体のコストを低く抑え、他のお客様の納期も守ることができています。
もし間違いが見つかったら、どうぞ遠慮なくご相談ください。その時は「修正」ではなく「差し替え」という形で、最高の状態に整え直しましょう。私たちは、お客様と一緒に最善の解決策を考える「表現の相談所」でありたいと思っています。
「完全原稿」という、お客様と私たちの信頼のカタチ
ダイレクト印刷において、理想とされる入稿の姿。それを私たちは「完全原稿」と呼んでいます。
これは、文字の誤字脱字がなく、写真や図版の配置も完璧で、そのまま印刷機にかけても一点の曇りもない状態の原稿のことです。
「なんだか、プレッシャーだな」と感じさせてしまったらごめんなさい。でも、これは決して「間違えたらダメだ」と突き放しているわけではないのです。むしろ、お客様がその原稿に込めた情熱を、私たちが100%の純度で紙の上に再現するための、大切な「約束事」だと思っていただければ幸いです。
私たち近森謄写堂は、創業から70年、高知の皆さんの「伝えたい」という想いに寄り添ってきました。
今はデジタルで何でもできる時代ですが、あえて手間をかけて原稿を整え、それをダイレクト印刷で仕上げる。そこには、どこか人間味のある、温かい手触りが残ります。
もし、「この原稿でダイレクト印刷ができるかな?」「もっといい方法はないかな?」と迷われたら、原稿を完成させる前に、ぜひ一度私に会いに来てください。
「印刷会社」としての技術はもちろん、3代目としての新しい感性も交えながら、あなたの「表現」にとって最適な道筋をご提案させていただきます。
一緒に、納得のいく一冊、一枚を作っていきましょう。